|
精霊流しについて
「精霊流し」は長崎で行われている、故人を供養するための儀式です。久しぶりに帰ってこられたご先祖さまや新仏を乗せるために大小の精霊船を作り、毎年8月15日の夕刻から夜にかけて各家庭や地域から流し場までを「チャンコーン、チャンコーン」という鉦の音に合わせ「どーいどい」と念仏を唱えながら行列して運びます。そして西方の海の先にある十億万土の彼方までお送りするという行事です。

先人達が「往復徒歩ではきつかろう(疲れるだろう)」と木材や竹、藁で作った精霊(みたま)舟を仕立て、お送りした旧習が今に受け継がれて「精霊流し」と言われる行事になったものです。精霊船の行列は葬式行列と同じものと考えてよいでしょう。
「精霊流し」は近年、まちがった宣伝で観光化されてはいますが、お祭りではありません。「精霊流し」とお祭りが大きく違う点は、主催者がいないということです。「精霊流し」は市民が自然発生的に自ら船を担ぎ出し、流し場までの道中を練り歩きます。故人を家族や地域住民、沿道の人までもがみんなで送る、いわば「市民葬」ともいえます。そしてこの主催者のない行事が300年以上の歴史を刻み、現在も続いていることはある意味、奇跡といえるでしょう。
精霊船の種類は大きく分けると各家の“個人船”と、町会や地域単位の共同船“もやい船”があります。
個人船は初盆を迎えた時に1回だけ流します。船には各家庭で仏前に供えた花や食べものなどを菰(コモ)で包み、精霊さまのお土産として一緒に船に乗せます。
もやい船はご先祖様の御霊に西方浄土までわいわいと楽しくお帰りいただけるよう、町の住民を中心とする有志の方々により製作します。「舫(もや)う」とは船と船、船と陸をつなぐという意味で使いますが、精霊流しに係わる人々は昔から、精霊さまと生きている我々、町に住む一人ひとりの気持ちを舫(もや)うための「もやい船」をつくっています。
精霊船の行列は先頭から印灯篭(シルシドウロウ)、精霊鉦、町の長(個人の場合は喪主)、精霊船、関係者の順に編成されます。交差点などで合流する場合は必ず責任者が挨拶をしてその行列の前もしくは後に入ることが礼儀とされています。
もし行列の途中に割り込むような無礼があれば、町を挙げてのケンカになります。精霊船の担ぎ手は血気盛んな人が多く、船の中に刀や木刀を仕込んでいた輩もいたそうです。ひと昔前の話ですが。喧嘩自慢の行事でその腕っ節を競っていたとも言われています。現在ではほとんどありえません。
本来仏教的民間行事であった「精霊流し」も、現在ではクリスマスよろしく統一的宗教色は薄れています。お祭りの山車を模した船があったり、十字架を立てた船があったりもします。
町の伝統的な船や各家庭が思い思いにつくった独創的な船を見物するのも楽しみにひとつです。しかしその喧騒の中に家族や担ぎ手の、故人に対する想いや切なさを感じることができるのは「精霊流し」が持ち合わせた歴史的背景により醸し出される独特の雰囲気であるといえます。
写真はフジテレビ「熱血!平成教育学院」2008年3月9日(日)放送にて紹介されました。 |